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「理科系の作文技術」を読んだ

以前、id:hyoshiok さんのブログで紹介されており、ずっと気になっていたので読んでみました。

対象とする読者

「私がこの書物の読者と想定するのは、ひろい意味での理科系の、わかい研究者・技術者と学生諸君だ。これらの人たちが仕事でものを書くとき――学生ならば勉学のためにものを書くとき――に役立つような表現技術のテキストを提供したい」。

序章で著者がこう述べているように、本書は主に理系層がターゲットとなっています。 しかし、実際に読んでみると、文書を書くすべての人におすすめできる内容になっています。

以下、印象に残った内容をいくつか紹介していきます。(数字は章を表す)

読者を意識する(2.3.4)

書くことに慣れていない人は、誰が読むのかを考えずに書き始める傾向がある、と著者は述べています。

読者が誰であり、その読者はどれだけの予備知識を持っているか、またその文書に何を期待し、要求するだろうかを、十分に考慮しなければならない。

これは技術ブログを書く際にも通じると感じました。読者がプログラミング初心者なのか、それとも基本的なことは理解している中級者なのか。読者のレベルによっても書く内容は変わってくると思います。

目標規定文(2.4)

自分は何を目標としてその文書を書くのか、そこで何を主張しようとするのかを熟考して、それを一つの文にまとめる。そういう文を、この本では目標規定文と読んでいました。

私はふだん、業務用の文書(Wikiなど)を書く際に、「これは何」という段落を一番上に用意するようにしています。そこに文書の目的を書くことが多いのですが、これがまさに目標規定文なのかな、と思いました。これがあるだけで、読者は読む・読まないの判断ができるようになります。

まぎれのない文を(8.3)

黒い目のきれいな女の子

この文はなんと 8通り に読むことができます。(ロゲルギスト共著『第四物理の散歩道』、(岩波書店、1969)、p226より)

「読むことができる」と表現しましたが、それだけ読者に誤解を与えてしまう可能性があるとも言えます。

この例は読点を入れることでまぎれがなくなります。

  • 黒い目の、きれいな、女の子
  • 黒い、目のきれいな、女の子

一つの文を書くたびに、読者がどういう意味に取るだろうかと、あらゆる可能性を検討するべきです。

字面の白さ(8.5.1)

次の2つの文を比べてみてください。

  1. 電源電圧の変動は普通0.1%程度だが、これでは普通  10^-7 程度の周波数安定性しか得られない。我々の実験目的を達成するには、抵抗R1を調整して安定性を良くする必要がある。

  2. 電源電圧の変動はふつう0.1%程度だが、これではふつう  10^-7 程度の周波数安定性しか得られない。われわれの実験目的を達成するには、抵抗R1を調整して安定性をよくする必要がある。

パッと見たとき、A. は全体として黒く、B. はそれとくらべて白く感じられると思います。字面の白さとはそういう意味です。無駄に漢字を使うと文章に難解な印象を与えてしまうので、適切な白さにすべきです。

手紙(10.1)

まだ e-mail も普及していなかった時代なので、手紙で要件を伝える方法についても書かれています。

印象的だったのが、10.1.3 本文 の

私なら、情報伝達に関係のない「拝啓、時下ますます・・・」は省いて〜

の部分。

メール文化になった今も「○○様 お世話になっております。△△株式会社の・・・」から始まるメールで溢れており、この辺は今もあまり変わっていないですね。

「読む」のではなく「話す」(11.1)

最終章では学会講演の要領についても書かれています。ここは「学会講演」を「勉強会での発表」に置き換えて読みました。

講演では原稿を「読む」のは禁物だ。聞く立場になってみればすぐにわかることだが、ひとが原稿を読みあげるのについていくには非常な努力がいる。

これは確かにその通りで、例えば「真空中で400℃、2時間の熱処理をした試料の表面に金の電極を蒸着し、・・・」というような複文は、読めばスラスラとわかっても、聞く側になると結構つらいものがあります。

この例は「資料はあらかじめ真空中で400℃、2時間の熱処理をします。その試料の表面に金の電極を蒸着し・・・」と単文に分割することで救われそうです。しかし、著者も述べているように、原稿をただ読みあげるのではなく、多少下手でも一生懸命「自分の言葉」でオーディエンスに話しかけることが重要なのだと思います。

おわりに

出版が1981年ということもあり、中にはOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)の使い方など、今ではあまり使われなくなった内容も含まれています。しかし、それ以外の内容は30年以上たった今でも十分通用すると思いました。もっと早くこの本に出会いたかった!

理科系の〜と銘打ってはいますが、文章を書くすべての人におすすめしたい一冊です。